力動的精神療法と同じく有効だと思われるセラピーに認知療法がある。 認知療法は、非適応的な認知(思考)、感情、行動を変えていく方法である。ネガ ティブな、あるいは歪んだ自動思考を同定し修正していくプロセスが鍵となる。この ような自動思考は、人が特殊な状況のただ中に置かれたときに素速く生じる。その人 が感情的に敏感になるような問題が強調される状況であればあるほど、歪んだ思考で 反応しやすくなる。これは、感情状態にマイナスの影響を与えることになる。自動思 考を簡単に挙げると、二分割思考、拡大視、自己関連づけ、状況からネガティブな事 柄を選択的に抽出する、破局視、縮小視、「すべき」という言い方、レッテル貼り (自分また/あるいは他者について)がある。根底にある(無意識の)認知的スキー マ(例:「私は誰にも愛されていない」)が、認知的歪みが生じやすい傾向の肝心要 のところにあると考えられている。
抑うつと不安、あるいは対人関係での困難のような問題のある患者は、ネガ ティブで非適応的な自動思考を多く持っている。この自動思考は無力感や引きこもり、攻 撃、回避等の行動につながる。これらの行動によって問題は更に悪化し、気分状態も 悪化して、更に非適応的な思考が出現する。これは悪循環である。認知療法ではこれ らの認知的誤りを患者が認識して修正できるよう援助する。これはセラピストとの話し合 いや、書くことによって状況や歪みの輪郭を描きリストにすることや、宿題を通して 行われる。歪みを強化してきた、昔からの非適応的な行動パターンを修正するために は、行動の変容が必要になることもある。
患者の思考がいかに感情の善し悪しに影響するのかを患者自身が知るためにも、 認知療法は非常に効果的である。しかしながら、歪みや根底にあるスキーマの原因、あ るいはどのようにしたら他者との関係がうまくいくようになるのかに関しては、認知 療法では触れない。自己をより深く理解するためには、力動的精神療法が必要になる のが普通である。力動的精神療法での方が、感情生活に無意識的に付随するものは何 か、そしてそれらがどのように対人関係に影響するのかがもっと扱われるからであ る。
幾つかの研究では、重篤な抑うつにある患者の認知的な歪みが抗うつ剤により消 えたとしている。重篤な抑うつは生物学的要因(すなわち、気分をコントロールする神 経化学物質に乱れが生じている)の結果であることが多いのに対し、より軽度の気分 障害は、むしろ個人の人格様式から来る歪みが原因となっているということであろ う。したがって、なぜ歪みが生じたのかという正確な原因についての結論はまだ出て いなくても、その歪みのせいでどのようにして感情的問題が生じているのか、その可 能性について患者に示唆することは、臨床的に意義にかなったことである。
幾つかの精神療法を組み合わせることが、大抵の場合に最も有効である。問題の 種類にもよるが、より重篤な症状に対しては、精神療法と併せて投薬を行う必要があ る。あるいは、数多くの精神療法を行ったのに効果が見られない場合にも投薬が必要 となる。多くの人が薬という手段を採ることに気が進まないのはわかる。しかし、 次のような原則を知ることにより、不必要な苦しみを防ぐことができる。
Beck, J: Cognitive Therapy: Basics and Beyond. New York: Guilford, 1995.
Burns, D.D: Feeling Good. New York: Avon Books, 1980.
Fava M., Davidson K., Alpert JE., Nierenberg AA., Worthington J., O'Sullivan R. Rosenbaum JF: Hostility changes following antidepressant treatment: relationship to stress and negative thinking. Journal of Psychiatric Research. 30(6):459-67, 1996 Nov-Dec.