精神防衛が起しうるセラピーの妨害

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バーガー ダグラス 精神科医(著)

イントロ

心理療法において、セラピストが助けを提供しようと試みることは興味深くはあるが、逆説的な曲折もある。例えば、腫瘍を取り除いてもらうために外科に行く時は、患者は外科医の手術に同意し腫瘍を取り除かれることを了承する。一方で、心理的問題になると、患者はいくつかの問題を抱えているのを認識しているにも拘らず、しばしば、自身の適応力(自衛・人格気質)が問題起因であることに気づかない。

患者は不適応な精神防衛をしているのを自己洞察しているのだが、適応力を変えることにしばしば抵抗をみせ、むしろ今まで維持してきた適応力を変化させずに、物事を円滑に進める事を好む。実際、患者はセラピストに、彼らのやり方を評価してもらうこと、もしくは、いかにその不適応な自衛を向上させていくかのアドヴァイスを求める。腫瘍をとる外科的手術を依頼すると同時に、なぜ、それを残したまま生きる方が改善に向かうかと外科医に確かめることなど、想像できるであろうか。以下を読めばこの問題がより明確になるだろう。

これが無意識下に起こる自衛であり、自衛手段を変えることへの抵抗は態度に表れる。セラピストが職務を遂行するためには、これらの障害を乗り越えていかなければならない。外部からも明白な程、自衛により起きている重大な社会心理的問題に直面しても、患者はその不適応さでも問題回避が可能だ、と多くの場合、理由付けの拒絶が無意識的に起きている。

この順応しきれていない適応力は患者の過去、そして現在に至るまでの人間関係においても顕著だ。それは患者とセラピストの間でも一目瞭然である。患者の内面を通じて共有できる糸口を探し、新しく、より適応性の高いものに手引きするのはセラピストへの難題である。そして中立な立場で振舞い、個人色をださぬように努めなければならない。この方法は、セラピストの過度の影響を及ぼさずに、セラピストと患者の間で新たな適応力を高める方法を考案していくことが出来る。

症例

具体的な症例がこれらの概念を理解しやすくするだろう。

ターミネーター:他人から拒絶される痛みを与えられる前に、拒絶することで自衛をする。ターミネーターは、幼少期に十分な愛情、関心、注目を自分に惹く事ができなかった経験があるであろう。過失は他人にあると考え、親密な関係を築こうとせず、早々と関係に見切りをつける一方で、望ましい相手に出会うことが出来ないという不満を持っている。当初から性格、年齢、家庭環境、に問題のあるパートナーと関係を築こうとする傾向があるので、まさに新たに来る拒絶に種を蒔いているようだ。そして、以前のセラピストとの軋轢とセラピーを途中で止めた事を報告する。こういった患者の多くは、何故その関係が上手く行かなかったかの詳細な説明を用意している。

セッションにおいて、患者はセラピストの粗探しをし、十分な配慮が無い等の不満を言う。特に患者は、セラピストが自分の悲嘆への理解を示さず、拒絶の傾向にあると言うことを、もっとも貶されたと感じる。そしてセッションとセッションの間、彼らは潜在する寂しさを埋めようと、電話やメールで膨大な時間をセラピストに割かせる。しかし、セラピストが逐一返答しなかったり、連絡を取るのに制約をつけたりすると、それがまた不平を募らせる。次第に、この自然な拒絶の様がセラピストを解雇、そして、セラピーを終らせることになる。言うまでも無く、その問題自体が、セラピーを妨害していく。

プレジデント:自身を疎外感の苦悩から守るために、自分の権威を見せつける自衛手段をとる。プレジデントは幼少期、家族や友達に満たされなかった、または努力に値する評価を得られなかったという経験があると思われる。そして重要な人物との繋がりを保つため、自身をも重要人物(学級委員長、会社社長など)にするため、何をするにでも権威を誇示していく必要があると考える。彼らにとっては話題の中心・社交の輪でトップに居ないことの苛立ち、権威への野心、もしくは、その振舞いに辟易しているパートナー等が原因で、多くの場合セラピーを受けに来る。患者は、なぜ精神的安定を得るために権威が必要か、詳細な理由をもたびたび持ち合わせている。

セッションでは、適応力を変えることを求めるよりもむしろ、セラピストが患者に対して畏敬の念を持つこと、自分の権威を評価されとことを求めている。患者の望む妥当な評価せず、より適切な方法を提案し、潜在する低い自尊心を探ろうとすると、患者は名誉をけなされたと間違った解釈をし、根本的な問題解決を始める前にセラピーを終了させてしまう危険を伴う。この問題がセラピーを妨げるのは言うまでもない。

エアートラフィックコントローラー:他人にコントロールされる不快感から自身を守るため、他人をコントロールしようとする自衛をする。エアートラフィックコントローラーは幼少期に、抑制されたり、両親から威圧的接せられたりの経験があるだろう。他者、特に密接な関係にある人、職場の人をコントロールしたいという傾向にあり、それが人々との軋轢に繋がる。これがたびたびセラピーに訪れる主な理由である。

セッションに於いて、セラピストがスケジュールやキャンセルポリシーを決めることなどに苦痛を抱く。それが発端となり、セラピストの意見を議論し、彼らは患者側の視点にたって物を見ることが出来ないなどと不平を言う。彼らは、何事に関しても常に正しくないと駄目で、理屈ばかり言い、いかに他者との議論で理論的だったか評価してもらいたい。が、その自衛法を説明されたところで、全く受け入れようとしないので、セラピー過程に取り組む前にセラピーは次第に終っていく。言うまでも無く、問題行動はセラピーを妨げる。

インヴィジブルペイシェント:抑制や貶される不快感から自分を守るために、従順で受身的、複雑な自衛手段を用いる。インヴィジブルペイシェントは幼少期に、無碍に貶されたり、両親に威圧的に接されたりの経験があっただろう。表面的には素直で協調的だが、深刻には、非強調的で人と親密になることに壁を隔てている。重大な行事に現れない、仕事に遅刻をする、仕事上や他人との約束は御座なり、そしてそれが他者との軋轢に繋がる。こういった事が大抵セラピーを受けに来る理由である。

セラピーにおいて、患者は頻繁にセッションに遅刻、欠席、そして料金の滞納をする。人間関係はあるので、その中での口うるさい人々(伴侶、上司、セラピスト等)との対立を繰り返し起す。彼らは持ち合わせた理知的・合理的思考で自己の行動を説明する。うわべでは、セラピストの言った事に同調している様だが、彼らの適応力には変化が見られず、全く効果が無い。乏しいのセッションへの出席、度重なる遅刻、または料金の滞納で、セラピストがセラピーを終了しなくても、時機に、患者は家族や仕事などという受動的な言い訳でセラピーを止めるだろう。言うまでもなく、問題行動はセラピーを妨げり。場合に拠っては、セラピストが患者にこの問題は解決し難いという逆説的手段が、こういったタイプの患者を上手にセラピー過程に持っていくことができる。

ベルクロペイシェント:他人に執着することで(オブジェクトハンガー:重要な人物との別離を回避しようとする激しい固執)、自分を孤独の恐怖感から自衛する。ヴェロクロペイシェントは幼少期に、見放される、もしくは対極的に、全く一人になったことが無いという経験があっただろう。過保護下に産まれた子供は、種々雑多な教育で、不順応を新たに生じてしまう可能性がある。

患者は、初めから必ずといっても良いほど軋轢を生みそうだな不健全な関係をもち、それを続けること、又は、パートナーから別れを切り出されたことで、セラピーを受けるところに辿り着く。傾向としては、不適切な相手と関係に陥り易い(不倫願望、暴力的、みだりに関係を持つなど)。わざわざ小難しいのを探す必要性はないのに、大多数がそういった相手との関係に踏み切るのを避けるので、不健全な相手になりうる人物は、いつまでもヴェルクロのようにまとわりつく相手に出会わないと、当然の事ながら関係というものに気づかない。そして患者自身も、ちょっとした事で問題が起きる関係を持ってしまうのは、その激しい要求が人々を追いやるからで、それは良好な関係を築くのにも端を発する。患者は、行動を合理的に解釈する術をもっているであろう。

セッションにおいて、患者はセラピストに破滅的な関係を改善する方法を見出せるよう懇願する。または、不適応な自衛手段を見つめ直すよりむしろ、セラピストがパートナーを患者と別れないように説得してもらおうと試みる。苦悩を脱する為に、セラピストとの繋がりを維持していたい患者は、セッションとセッションの間で電話やメールのための膨大な時間を要求する。もしくは、セラピストにどうやって別離を回避するかの直接的な答えを要求する。患者は主に、固執的自衛手段のままでの改善を望むので、セラピストが固執的自衛手段を助長させることに賛同を示しそうも無いと感じると、セラピーは終了となる。再度、自衛の問題がセラピーを妨げることになる。

コンクリュージョン
患者が上記例の1つの兆候しか示さない一方で、他の患者は幾つかの混合された兆候を示すこともあるし、程度に誤差はあるが、甲型を持ちながら、乙型も持ち合わせている。そして、前述されたものは潜在的適応力、全てを網羅しているリストではない。加えて、このページは主に個々の人格気質を記述してはいるが、鬱病や他の精神病などの複雑な状況を議論したものではない。

時に、問題自体がセラピーを故意に妨害することが明確になってであろうか。変化を必要とする人への真剣な努力に対しても、拒絶は起こるので、これを受け入れていくには相当な勇気を要するでであろう。サイコセラピストと患者がセッションで向き合うのは難儀である。もちろんの事、多くの患者はセラピーへの妨げも無く、改善に向かいうが、このページの目的は起こりうるであろう問題を提議したに限る。

もし、セラピストが患者からの厚い信頼を得、セラピーの効果、陥りやすい問題点を説明できるならば、改善は約束されたも同然である。多くの場合、経過を明確にするのは容易ではない。患者が相対的に慎重で合理的な考えを持ち、知的に自衛をするならば(前述)、より潜在的な自衛が作用している。が、これらのとらえ難い兆候が顕著になる頃には、手遅れである。



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